Kenichi Yoshijima / バーテンダー(滋賀・日本)

Photo © Kenichi Yoshijima 2016
海外と日本を出入りすると、多くの人について回るイベントとして「転職」がある。
バックパッカー生活を終え、オーストラリアから帰国したぼくは、お金もなくなっていたし、
とにかく働かなければという漠然とした焦りがあって、それで夜勤の仕事を始める。
仕事内容はホテルのポーターだった。入り口に立って、タクシーや自家用車で辿り着いた旅行者を部屋まで案内するというのが主な仕事。夜間は翌日の宿泊者に備えて、カードキーなどを準備していた。
さて、人はどこに行こうとも、価値観が合う人、合わない人がいる。
そこで働くの多くの人たちは、自分たちの仕事に対して不満を抱えながら暮らしていた。とにかく口を開けば誰かの悪口と環境への不満だった。確かに労働環境は良いとはいえなかった。なので彼らの気持ちはわかる。それは愚痴の一つや二つは言いたくもなる。
しかし、毎日繰り返される汚い言葉に、ぼくは徐々に距離を置くようになった。
ところで、ある程度大きいホテルにはロビーの横に併設したバーがあるものである。ぼくはそこのバーテンダーとよく話をしていた。とにかく初めからフランクに話せた。さすがは接客のプロ「バーテン」である。彼はその周りの人たちと違って、バーテンダーであることに誇りを持っていた。彼がその男だった。
お酒の弱いぼくに行きつけのバーなんてものはなく、なのでそれまでバーテンダーの友人なんていなかった。七色のカクテルを「比重が違うから混ざんないんだよ」と言って作ってもらったりしては「すげー」と興奮していた。
彼は真面目なバーテンダーである。ストレートだ。曲がっていない。
そのためさまざまな要因からそうでなくなってしまった人たちと、度々衝突することもある。
まあそういうところが彼らしいし、ぼく自身も惹かれるところなのかもしれない。
最近しばらく会っていない。久しぶりに彼のお酒をのみたいものだ。