#09 昔言われたこと

「美味いエスプレッソって飲んだことある?鳥肌が立つようなやつ。
それがないうちは、美味いのは淹れられんよ。残念やけど」
ぼくは福岡のとあるコーヒー屋でバイトしていた。
そこはオシャレなカフェではなく、
爽やかなお兄さんたちが、気持ちのよい音楽の中で淹れるコーヒースタンドでもなければ、
ビシっと白シャツと黒いエプロンをした、大人たちのもてなしをする気取った珈琲専門店でもない。
不良たちが、高級なコーヒーを、狂ったようにクソ真面目にやっているようなコーヒー屋だ。
週1、2回あるカッピングは「工場」と呼ばれるアジトのような古小屋で、
ラモーンズとかが爆音でなる中、行われる場所だった。
「二.三年に一回あるんよ。そういうのが」
当時焙煎をやってたミスギさんが言った。
この世界は、奥の深い世界で、知れば知るほど底なしのものだ。
どこまで追っかけるのか、
求めるかっていう、
それがコーヒーの世界。
例えば百点満点のあるテストとか、逆に点数化できず良し悪しの判断できない旅のようなものとか、
そういったものにばかり触れてきたぼくにとって、ゴールの見えない、
しかしいくらでも先のあるもの、というのは、
これはチャレンジングなものだった。
「俺は−−−」ミスギさんは言う。
「朝起きて美味いコーヒーを飲みたい。だからやってる」
彼は常に回答を持ってる気がする。
そこに至るまでには、自身が納得するまで答えを求める過程があったんだろうな。
色んな道をぼくらは選べる。
選べるというのは、言い換えれば、
その都度、決めなければならないということだ。
それを追っかけてる人ってのは
まあそれはかっこいいなと思う。
(ちなみにミスギさんはその後独立している。→3 Ceders Coffee)
そして、
お前はどうなんだ
music/ itaikena aki /Kazuyoshi Saito feat. Bose