#17 路上の先輩

数年前カナダで暮らしていた頃、ぼくはロウ引きひもをつかってアクセサリーをつくっていた。

仕事のない時間は路上に出かけては、美術館の前のストリートに並べ、それを五ドルとか十ドルとかで売っていた。

 

かといってどっかの素人がつくって布の上に並べてあるものが、そんなに売れるはずもない。何時間も誰も話しかけてこないこともあるし、となりで手相やってるジイさんに「てめえここは俺の場所だ。あっちいけよ」と言われたりして、場所を移動したりと、路上生活も楽な仕事ではない。

 

その日もぼくは路上に出て売っていた。湿気たツラとはこういうものを言うのだろうという顔をしながら、孤独と虚しさと向き合いながら、これも修行だとブレスレットを作り続けていた。

 

二時間やって、二人にしか話しかけられなかった。もちろん一個も売れず。

今日は話した人も何か変な人たちだった。

三時間程過ぎて、「ダメか。帰ろうか」と考えてるところに白髪のおじさんが近くにやってきた。

 

ぼくは彼を知ってた。いつもカナダ先住民の、木の彫刻みたいな物を売っているおじさんだった。ぼくのように路上でやってた。いちおう挨拶する。

 

「どうも。いつもそこでやってますよね。今日は場所変えたんすか」

「ああ、うるせえやつがきたからな。見ろよ。嫌なんだよああいうやつ」

スピーカーをガンガン鳴らしてパフォーマンスしてる男を指差し、おじさんはふざけてマネした。

「ああ」

「俺も昔やってたんだよ。二十代のときはお前みたいにそういうやつを道に広げて売ってたんだ。金を使うためじゃなくて、金を作るために旅してた。それこそアフリカで買ったやつバーッと並べてさ」

「そうなんですか」

「バンクーバーは高いし、住むのにいいところじゃない。俺はここに稼ぎに来たんだ。ああいう彫刻を売ってるんだ。カナダの先住民のデザインなんだよ。見たことあるだろ。月二千ドルは売ってるぜ。もう少ししたらまたどこかに行くんだ」

「二千ですか。すごいっすね。ぼくもなんだかここを出ようか考えるんですよ。でもこないだ始めたコーヒーショップの仕事も、自分にとっては新しいことだし、まだしばらくいようかとは思ってるんです。自分でもよくわかんないんすけど」

「お前は日本人か?」

「はい」

「日本のどこだ?俺は日本はかなりの数行ったよ。富士山も行ったし、横浜とかもな。アジアもヨーロッパも中南米もアフリカも行ったさ。旅中は本当にいろいろ考えるもんだ。

お前も考えてんだろ。自分は何者なのか。なぜここにいるのかってさ。真実を求めてて、そりゃあもちろん孤独を感じることもある」

ぼくの顔に書いてあっただろうか。心を見透かしたように彼は話す。

「でも大丈夫だよ。いつも一緒にいるやつがいるだろ。それは、自分の心だよ」

彼は笑顔を見せた

「自分の心が一番の相棒なんだ。自分を一番理解している。だからそいつとケンカはすべきじゃない。その相棒が、心地よい場所に行けばいいんだ。まあ俺はいまだにさがしてるよ。その、自分は何なのかとかさ、そういうの。」

 

そういうとおじさんは立ち上がった。

「来いよ。見せてやるよ。ネックレスとかも作ってたんだぜ」

 

ぼくはおじさんの荷物のあるほうについて行った。そして彼はカバンの中から、木を彫った十字架や彫刻を地面に広げた。

「お前にやるよ。これでまたなんか売れるもの作って、金にすりゃいいだろ?これはフィリピンに行ったときので、ライムの種入れ。それからこれはパプワニューギニアの神の彫刻だ。面白いだろ?ほらよ。

あとはこれだ。俺が彫ったやつ。コンドルが人間に変わっていく『変身』をあらわしているんだ。ネイティブカナディアンのアートだよ。」

変身か…

「あ、ありがとうございました!」

 

「おい、俺はこういう風に世界中で物を売っているけど、いいか、大事なのは人が欲しいものを知ることだ。文化を知るんだ。人の気持ちをとか心を理解すんだよ。お前自身のことばっか考えててもダメだ。うまくいかない。わかるか?ま、がんばれよ!」

 

ぼくは自分の持ち場に戻ると、荷物をまとめてバッグを背負う。

振り返るとおじさんがぼくに向かって言った。

「おいお前、気楽にいけよ!」

 

彼は笑って、近くにいたアジア系の女性とお喋りしだした

 

すごい。映画みたいだ

と思った。

それから何年がたったか。
ぼくはまだ人の心を、
理解していなかった。
そして、
またアクセサリーを編んでいる。

※この文は2013年7月に公開したものを加筆修正したものです。

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