#02 登山家の友人

「自分の命をかけてやる」
文字通りに命をかける人が、あなたの身の回りにどれほどいるだろうか。
たとえば日本人なら何人いるんだろう。一億人の中に何百人か、いや何千人かいるんだろうか。
家路へ急ぐ人々で空間を覆い尽くされた電車を見ながら、ぼくはカミタニテッペイと話したことを思い出している。
先日、本紙の1号に記事を書いてくれた彼と会った。(彼の紹介はこちら)
登山がどういうものかをぼくは知らない。
傾斜六十度の壁が、正三角形の一つの角と同じ角度ということは知っているが、それを登ることがどういうものなのか、何を感じるのかをぼくは知らない。
もしかしたら死ぬかもしれないと思ったことはあるが、そこへ自ら立ち向かっていく人が感じるものをぼくは知らない。
「伝えようと思った」
ぼくらのように命をかけたことのない人たちにも、そこで感じるものとか、見られる世界の、おそらくはほんの一部になると思うけれど、それを伝えようとしてくれている。
カミタニテッペイが以前からもっていたブログをリニューアルし、新たにウェブサイトをたちあげた。
「今度登る山なんですけど、ベースキャンプにいるところで電話するんで、天候とかを教えてほしいんです。
三日あればここを登って下りてこられるんですが。単独で登ったことがあるのは、今までに世界で一人しかいないんです。
アジア人では初になるんですよ。」
カナディアンロッキーの最高峰、マウント・ロブソンに登りに行くあの日、ぼくは彼のことを一緒に住んでいたシェアハウスから見送ったが、
こういう男の表情というのは、なんとも表現しにくい、まるで悟ったような、落ち着いたような、穏やかで広い何かをバックに感じさせるもので、ぼくはそれを鮮明に覚えている。
彼のウェブサイトには登頂の瞬間の動画もあり、なにが彼を登らせるのかの断片を感じることができると思う。
ぜひご覧いただきたい。