全ての名脇役たちへ / Special Essay #02 Katsumi Kawashima

 「とびきりに美味しいバナナがあるんだ。さあ、スプーンだ」と言い、T氏はバナナにヨーグルトをかけた皿をもってきてはこれを勧めた。- バナナか。とびきりなんてのはあまり聞かないな。どれ。なんてそれを口に運んでみると、なるほど、とびきりかどうかは僕の貧乏舌では判断しかねたが、どこか洒落ていて、美味しいじゃないか。きれいに食べて皿とスプーンを返す。彼の表情はどこか自慢げだったが、特に何も言わず皿を受け取った。そのあと一緒に近くの汚い洋食屋に入り、T氏が奥のテーブル席にどすんと掛けると、タバコに火をつけ、メニューを眺めながらこんなことを言った。

 「バナナ、超美味かったっしょ。でもね、あれ実は普通のバナナ。上からかけたヨーグルトが一流に美味いんだよね。つまり『バナナが美味い』と言いながらも、実際、バナナはヨーグルトを最も美味しく食べるための触媒なんだよな」「名脇役だよ。脇役が素晴らしいと、主役なんか要らないんだよ。でも主役がいないと、映画は成立しないよな。そういうこと」

 僕は、T氏に薦められてチキン・カツを、T氏はハンバーグ・ステーキをオーダーした。この洋食屋は、定食についてくる味噌汁が一流に美味いそうだ。メニューの中に「ポーク・カツ」というのがあったが、T氏は「これ、トンカツのことだよな」と笑った。映画の登場人物みたいな人だった。まるで名脇役。まさかそれをロールしているんじゃないだろうね。

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 映画「トレイン・スポッティング」の劇中で、主人公レントンがヘロイン中毒を克服しながら勝ち取った未来は、あらゆる名脇役を裏切ってこそ、鮮烈なものとして胸に残っています。映画「ニキータ」では、謎多き女工作員ニキータの美しさや強かさが演出されるためには、同じく名脇役の男たちがなくてはなりませんでした。そういう名脇役のタレントにこそハイパーリスペクトを送るべきではないかと、いま僕はそう思えています。

 例えば地球上には 「Good Life」という73億ものロードムービーがあって、いえ、すでにこの世にいない先輩方のを含めるとそれは数え切れないほどの……。作中、僕らがシアターの真ん中に見ているのはもちろんその主役。ちょうど大切なシーンだとします。主役は予期せぬ試練に打ちのめされ、これを乗り越えようともがき、苦しみます。そのココロの葛藤は、存在感ある名脇役たちによる言葉と行為があってこそ実感として彼をさいなむのです。それは起承転結における最高のスパイス。きっと不意に仕掛けられた、幸せになるための御膳立て。果たして作中の彼はチャプタを追う毎にどう変わっていくのだろう?こういった布石の数々とこれらに打ち克つ姿は、ムービーの見所です。

 僕の考える「Good Life」は映画のようなもの。そしてこの物語の行く末は、そんな自分を映し出してくれる脇役たちの手の中にあるような気がしています。決して他力本願ではなく、もちろん人生を選択し決断を下すのは自分自身。毎月の報酬、雇用保険、健康保険、厚生年金で担保された日々はつまらない。好きなことができるのが土日祝だけなんて? 結婚もどこかつまらない。音楽、写真、芸術、自然が出てこない人生なんて尚更つまらない。だからいま勇んで貧乏をしているのですが、そういった選択と決断の中で出会う名脇役たちと、僕は求めるべき「Good Life」の共有をしているのではないかと思います。

 そして最後はエンドロール。作品が終わったあとの黒幕にゆっくりと文字が流れていく…この場面。とびきりのバナナをご馳走してくれた彼は名脇役としてクレジットされることでしょう。他にも何名か僕にとって大切な大切な名脇役がいます。そして、僕もいつかは、どこかの誰かのエンドロールに僕の名前が残っていたい、そう願っています。

 この作品は僕が観るのではありません。僕以外の誰かが観ることで初めて「Good Life」という作品に新しい命が吹き込まれます。やがて死んでも誰かの名脇役となり、生きて語り継がれていきます。これが「人生は自分だけのものではない」と思う僕の人生観の根拠です。

 宇宙にまで飛んでいってしまいそうな話はトイレの本棚に置いておくとして、現在僕の「Good Life」のワンチャプタに名前をつけるならば、「はっきりもっと勇敢になって」。僕は勇気のなさと自信の無さの二重の壁に致命的スピードでぶつかっており、加えて今月の借金について悩んでいます。(これは実に個人的な話) しかしこれらは必然。クリアするにはいくつかの条件と名脇役の存在、そしてアクションを起こす主役の生き様が必要です。さてどうしよう。でも決してネガティヴなことだとは思いません。乗り越えたころにはきっと、大切な何かに近づけているはずだから。そう、「Good Life」の小さな答えに。

 物語はつづく。いまの僕を形成してくれた、全ての名脇役たちに感謝を込めて。

川嶋克

 

川嶋克 http://k-kawashima.petit.cc/
一九九二年 福岡県飯塚市生まれ。大分県日田市在住。
二〇十七年川嶋克編集室として活動開始。同年ブンボ株式会社にディレクターとして参画。釣りをしながら、広義の編集について学んでいる最中にある。